昨夜、「なんか挟まってる…」と、洗面所で小さい人が口を開けた。どうやら、下前歯に何か違和感があるらしい。「ここここ」と、指をさす。「挟まってる?今歯磨きしたばっかりでそれはないと思うんだけど…」完全に疑いの目で、指をさされた下前歯の裏側を見ると、白く、ぽこっとしている。むむ?触ってみると、かたい。いや、これ永久歯やん!余裕の表情で、こんばん歯。乳歯在籍中にもかかわらず、申し訳なさ0で後釜を狙おうと堂々としていた。
この乗っ取り事案は、今回で2件目。1件目は、今の隣の下前歯。ちっともぐらつかないうちに顔を出し、邪魔だ邪魔だと言わんばかりに舌の方向へにょきにょきし出した。やや痛みがあるらしかったから、歯医者へ行って、麻酔注射をして抜いてもらった。生える向きは大丈夫かと心配したけれど、前任者がいなくなったらしっかり真上へ、ちょっと奥まっていた位置も前へとずれて立派に生えた。
今回はというと、多少、ぐらぐらしている模様。とはいえ、根の張り方はいまだ優秀で、1ヶ月くらいはかかるんじゃないかという状況だった。「この感じだと、また麻酔注射かなあ」曖昧にしながらも、注射の可能性があると見解を話すと、「いやだああぁぁ…」とぽろぽろ泣き出した。「痛いもぉぉん…」麻酔注射の痛みがどんなものだったかは覚えていないけれど、確かに、痛かった記憶はある。「でも抜かなきゃだからさ、頑張ろ。もしかしたら塗る麻酔だけかもしれないし」なんとかなだめて、今日午後の予約を取った。
社会の先生には、今日は歯医者のことで頭がいっぱいだった様子を聞き、うわの空の1日に頭を下げた。もともと集中力散漫な方なのに、きっと大変だっただろうと思う。それくらい、小さい人にとって注射は一大事だ。
綺麗に歯を磨いて、いざ。
「2回目だね〜頑張ろうね〜!」先生たちみんなが激励してくれる。緊張した面持ちで先生に診てもらうと、あっさり、塗る麻酔だけで引っこ抜くことが決まった。
麻酔薬を塗った脱脂綿を歯茎にあてて、10分。注射は免れたが、抜く痛みは大丈夫なのかと、小さい人はまだ安心し切らない様子で、「どれくらい塗るの?」「痛くない?」と、抜かりなかった。
院長先生が、小さい人の視界に入らないよう抜歯鉗子を持って現れる。こんなにちっこくて、ラムネみたいな歯とのコンビにしては、あまりに怖い見た目だなといつも思う。
「目つぶっといてね」
「なんで!?」
小さい人は、なぜどうしてなんのために、みたいなことが、いつでもどこでも光る。私みたいなタイプは、目をつぶれと言われれば黙ってつぶるし、開けろと言われれば黙って開ける。だから、小さい人のこういう振る舞いに、「いいからさ、つぶりなよ」という気持ちが溢れてやきもきしてしまう。でも、「まぶしいからね〜」と先生たちが優しくかわしてくれたので、黙って小さい人の手を握った。一瞬でくんっと抜け、小さい人は「痛かったあぁぁ」とぼやくも、平気そうだった。
1本目は、牙みたいに尖って長くてこわかったけれど、今回のは短いし、尖ってもいない。小さい人の、小さい歯だった。「2本目は大きい人にあげますか〜」と話すと、「全部とっといたらどんどん増えてどうするんよ?」と、冷静に突っ込まれた。
9/15 (火) 余裕の表情で、こんばん歯。

