5時40分に起きるはずが6時になって、うおっ!と1.5倍速で抜け出し洗濯機を回す。どうか今日は上機嫌でありますように。掃除機をかけていると、寝室の奥にブランケットをかけられ手厚いもてなしを受けたおままごとセットたちが行儀よく静かにしており、今日はこの方々をお嫁に出す日だったことを思い出す。年末に、そろそろ化石化しそうな、とはいえあまりに新品同様のセカンドベビーカーをなんとかせねばと重い腰を上げ、相方の同僚に1歳半の小さき人を育てるお母さんがいるということで要りませんかと聞いてみると、ちょうど購入しようか迷っていたところだったのでぜひぜひ!と有難いお返事をいただけて、話はとんとん拍子で決まった。確か耐荷重22kgだったはずで、平均的な育ち方でいけば保育園・幼稚園の間は十分乗れるし、乗らなくなっても荷物置きとしてまだまだ使ってもらえるだろうから、我が家でちっとも本気を出せていないサブのあの子が全うな人生を送れると思うと嬉しい。ベビーカーを迎え入れていただけるということで気が大きくなり、小さい人が「そろそろお部屋を広くしたいのでおままごとキッチンも赤ちゃんにあげませんか」と、断捨離上級者みたいな申し出をしてきたから合わせて伺ってみると、これまためちゃめちゃ喜んでくれて、野菜やまな板、ティーセットなどの小物類も選別してぴかぴかに消毒した。ほこりをかぶって大切な小さき人に何かあっては大変だから、我が家で1番空気の動かない寝室へ安置していたのだった。今日の15時に車でお迎えに来てくれる段取りなので、私も間接的にではあるが仕事でお世話になっているからちゃんとお手紙を添えねばなと、久々に筆を込めるから気合いが入る。
洗濯機の機嫌が最高でぎゅんぎゅんこなしてくれたから、定刻通り小さい人と自宅を出て社会へと向かう。寝坊はしたが滑り出しがいい。仲良しのそよちゃん (仮です) も同じタイミングで向こうからやって来て、かわいい人々は両手をいっぱい広げ花を飛ばす勢いで抱き合う。毎日見る光景だがいつ見ても心の底からきゅんとさせられる。油断ならない。9時を過ぎないと出陣できないため、玄関のところでおしゃべりして時間をつぶすのが恒例で、今日の話題はランドセルだ。小さい人たちはおのおの「水色!」「うすむらさき!」と発表し合い、「いいねかわいいね」と大人も交じって談話する。うちの小さい人は前までうすむらさきがいいと言っていたのだけれど水色に転向し、そよちゃんは前までピンクだったのが、うちの小さい人の影響を受けてうすむらさきになったのだとお母さんが教えてくれた。小さい人々がきゃっきゃしている間、6年も使うからうすむらさきってどうなんだろうと、かわいすぎる色より深みのある色の方が良いんじゃないかという大人視点の見解を話してくれて、私も深く賛同する。と、急にうちの小さい人がそよちゃんのお母さんに向かって「ねえー?うすむらさきなんてかわいくないよー」と、無邪気にではあるもののそう言い放ち、私が「おぬしなにを…?」と思っていると、すかさずお母さんが「え〜うすむらさきもかわいいと思うよ。ほら、てぃのちゃんの上履きもうすむらさきだし」と、そよちゃんをフォローしつつその場の雰囲気を崩さないように話してくれ、「あっ時間になったから行こう〜」と引率してくれる。もう絶対に何か言わなきゃいけない場面だったのに、「そんなこと言ったら悲しいでしょ」と小さい人に諭すことも、後で「傷付けるようなことを言ってしまってすみません」とお母さんに伝えることもできなかった。普通に小さい人々を見送り、お母さんもいつも通り「じゃ失礼しまーす!」と去って行き、大人だった。
自宅までの帰り道、私の中はいろんな思いが混沌として言葉にならず、だけどやっぱり何も言えなかった自分が腹立たしく悔やんでも悔やみきれなくて、帰って大きい人に一連の流れをぶちまけ、「そんなこと言っちゃいけんよって言わなきゃだったのに、言えなかったんだ。何も」と吐き切った。「たぶんだけど、優しく言えなそうで、ちゃんと怒っちゃいそうで、こわくて言えなかったんだと思う」と理由を添えると、「俯瞰して怒らない方、今は言わないでおくっていう選択ができたのはすごいと思うよ。思ったからって言えることばっかりじゃないし、その場で怒っちゃって正しく伝わらないよりも、後で落ち着いて話して理解してもらうのが良かったと思う」と、いつかGPTに人間関係の相談をした時と同じような全肯定の返答がきておいおいする。「でも怒ってでも言ってればその場で解決できたのに、言わなかったから今もそよちゃんは気にしてるかもしれないしやっぱり言うべきだったと思う」と食い下がると、「でも失敗じゃないよ」とまたGPTしてきて、もはやカウンセリングに来た患者の気分だった。「お友だちが気にしてるか気にしてないかは別の話で、けじめとしてちゃんとごめんねって言うべきだね」と方針を定めて解散した。すごい始まりになったなとめいっぱい放心した後、記憶が蒸発しないうちに状況を整理し、小さい人はなぜあんなことを言ってしまったのかを考察し、何をどう伝えるかを細かくまとめた。書こうと思っていたお手紙も抜かりなく書いた。
社会からの帰り道、自宅近くの川沿いに2人並んで座り、朝の話を切り出す。てぃのちゃんが言ったあの言葉はまいたけちゃん的にはあまり良くなかったと思うのだけれどそれがなぜだかわかるだろうかと尋ねたところ、「そよちゃんが好きな色なのにかわいくないって言っちゃったから」とスッと答えしゅんとする。どうやら小さい人は、自分でもかわいそうなことを言っちゃったと気にしていたらしく、でもだからってどうしていいかもわからずで、話していくうちに読み通り「うすむらさき色を否定すること」で「今は水色が大好きなんだ」という本気を、そよちゃんのお母さんにわかってもらおうとしたようだった。この前も、「ごはん食べる時さ、まいたけちゃんに隣に座ってほしい!むっくはやだ!まいたけちゃんが大好きだから座ってよ〜」と無邪気に言って、「それはむっくがかわいそうじゃない?」と大きい人の肩を持つとうえーんと泣き出してしまった。「大好き」に全力で誠実な小さい人は、何かを下げないと本気は伝わらないものだと思い込んでおり、「やだって言わなくてどうやったらわかってもらえるの?」という問いは切実だった。まだ大した人生経験を積んではいないが言ってやれることがあると思い、「大好き」の気持ちは他のどんな感情より強いからそれだけでちゃんとわかってもらえるのだと伝える。だから大好きを大好きのままで伝えられるようにしていこうと提案すると、「うん」とこくっとした。それにしても、「強さを出したい」「本気だとわかってほしい」という性質が、王者獅子座っぽさ前面でわかりやすい。明日の朝、そよちゃんにごめんねをすると決め、手を繋いで帰った。
15時に我が家の大物たちを無事お嫁に出し、小さい人はいただいた文房具を嬉しそうに開封した後お菓子を食べ、スッと本当の日常に戻っていった。切り替えが華麗で鮮やかだ。
夜、お風呂からあがり脱衣所を出ると、廊下にお香の香りが立ち込めていてハッとする。出どころはやはり書斎だ。相方の大きい人は人生に対しウルトラハイパー本気になった時、必ずお香を焚いて香り出す。いわゆるのろしのようなものだろうか。実はお昼ごはん時分、頼んでいないがこれからの挑戦と構想をもりもり話してくれ、あまりに多岐すぎるし何にしてもひのえうまのパワーを借りて猛烈すぎるから、「なんかもう未確認生物じゃん」と良い意味での理解不能を伝えると、「あれ?未確認生物ってU・F・O…それじゃ未確認飛行物体か、あれっなんだっけ?」とスマホで調べたら「UMA」で「うまじゃん!」と盛り上がった。未来像の鮮明さと思いの止められなさから見て、どうやら来てるな来てるなと感じてはいたが、来たか。お香の出番が。UMAにも最後ひと押しされたしな。それが、ほとばしる熱を鎮めるためなのか、それとも、自らを燃やし廃となっていくそのさまに人生を重ね己を奮い立たせるためなのかはわからないけれど、どちらにしても、いよいよ「香も魂も燃え出したな」と「その時」が来たことを私は静かに悟った。
1/13 (火) 何かを下げないと本気は伝わらないものだと思い込んでいた。

