今日は、2ヶ月に1回の、スイミングのテストがある。小さい人は現在、8級の「緑たこさん」で、今日もし合格できれば、同級の「赤たこさん」に進級できる。水中に台を置いた状態でプールサイドから飛び込み、ぶくぶくーっと頭まで潜る、というのが進級項目だ。先週の様子をハイライトすると、コーチに抱っこされ、一緒に頭まで潜る練習をしていたのだけれど、「そんなに潜りたくないー!」ばりに足で踏ん張って、ギリギリゴーグルが隠れるくらいしか潜れていなかった。やさしーく見積もっても、合格は遥か彼方だった。
旅行もあったりして、数回お休みしたのも影響しているだろうが、それにしてこの2ヶ月、ほぼ前進がなかったと言っていい。当初に比べれば水には慣れたけれど、「慣れ」のトラックはまだまだ先がある。もし「水が好きな人」、が100m走のゴール地点だとすると、今は40mくらいか。今回のテストで合格できないのは仕方ない。し、全然それでいい。でも、どのみち、どこかのタイミングでは、本人が覚悟を決めて、何かを突破しなければならないことは確かだ。一度、背中を押してみるかどうか、迷った。無理はさせたくないし、もっと水が怖くなってしまったら本末転倒だ。そもそも、そういう「殻を破ること」も含めて通わせている気持ちだから、「先生方お願いしますよ〜」という親心も正直ある。でも、そこまで求めるのは、今の時代に合わないのかもしれない。直接的に何かあったわけではないけれど、家庭と社会の支え合いが、昔とはちょっと違う気がする。家庭側も社会に求め、社会側も家庭に求め、うまく回っていないような感じがする。認識がそれぞれバラバラだから、ズレるし、ぶつかるし、距離ができてしまう。自分たちでできることはやって、できないところは誠意を持ってお願いする。お金が絡んでいるとなかなか難しいのだが、きっと周りに期待してはいけないのだろう。
というわけで、テスト1週間前という、絶妙な緊張感がある中で、できるところまでやってみることにした。今週、日曜日から金曜日までは、毎日お風呂をいっぱいに溜めて、大きい人が特訓をしてくれた。水面に顔をつけるところから始まり、鼻でぶくぶくする練習、徐々に深く潜る練習。最終日は、支えてもらいながら浴槽の淵から飛び込む練習までした。教えることがもともと上手な人で、1つ1つ、小さく段階を踏んで積み重ねていってくれた。おかげで、中盤にはもう、殻を破ったようだった。越えたな、と、思った。
「てぃのちゃんさ、水の聖人じゃん!」
本人が嬉しそうに言ったのを、大きい人と2人で喜んだ。これはもしかして、もしかするかもしれない。もちろん、お風呂とプールじゃ全く違うし、緊張する環境の中では練習通りにいかない可能性もある。でも、十分可能性があると、そう思えるレベルにまでいけたことが、もう奇跡だ。
さあ、本番。
「テストが始まる前に、いつも通り水慣らしの時間があるだろうから、その時にざぶんざぶん潜って練習しておきな〜」
合格できなくたっていい。その気持ちに嘘はないのだけれど、やっぱり、期待してしまう。合格して、自信をつけることができたら。頑張って練習してよかったねー!と、3人で飛び跳ねられたら。
興奮気味の自分をなだめながら、大きい人とギャラリーから見つめる。練習の順番が回ってくるまで、小さい人はじゃぼんっと潜り、自信に満ちた顔でこちらに視線を送る。
「密かに練習してるね。大丈夫かもよ!?」
気付けば、私はガラスにへばりついて立ち見していた。これまで、あまりに熱心すぎる親感を出さぬように気を付けていたのに、これじゃあ全部水の泡だ。
「今日はさ、もう食べ過ぎ飲み過ぎだね」
スイミングの後のバーベキューで、喜びの暴飲暴食が確定した。
いよいよ。1人ずつテスト。設置してあるカメラに手を振り、おのおのが自分の種目に挑む。12人のグループだから、11人がプールサイドで息を潜めている中、コーチと2人で、立ち向かう。
さあ、小さい人の番。あまり緊張していない様子で、にこやかに手を振る。コーチの指示で、プールの淵ギリギリのラインに、立つ。そして。……バシャーン!水しぶきと共に、小さい人はほぼ消えた。ぶくぶくぶく…。
コーチの手を握り、あがってきた小さい人。その顔には、やり切った表情が満ちていた。大きい人と顔を見合わせ、「いいんじゃない!?」と盛り上がる。若干頭が出ていたけれど、もう、十分だ。先週は怖さが邪魔して、飛び込むのに結構時間もかかっていたのに、今日はまるで人魚のように水を求めた。克服の姿が、克明に、2人に残る。かっこよくて、たくましくて、嬉しかった。
「ありがとうございました!さようなら!」
小さい人たちの挑戦が、終わった。
更衣室で、緊張と期待を噛み殺しながら、待つ。すると、胸を張ってにんまりする小さい人が帰ってきた。
「なんと、赤いたこさんになりましたー!」
小さい人の手には、新しいワッペンが握られていた。
「おめでとう!合格したんだね!すごいすごい!」
「あとでむっくにも見せよっ!」
この笑顔は、大きい人の真剣な寄り添いなしでは見られなかった。この1週間が、3人の宝になった。ありがとう大きい人。本当に。
しっかり飲み過ぎて、夜の花火大会もうっすらな記憶だけれど、小さい人のあの顔は忘れない。水の楽しさと自信をいっぺんに得た、あの顔は。
7/25 (土) これはもしかして、もしかするかもしれない。

