朝。小さい人を社会へ送り届ける。自宅前の緩やかな坂道をのぼっていると、ハチ。
「ハチ!ハチ!」
咄嗟に、叫ぶ。虫全般が苦手なのだが、ハチなんて、中でもめちゃめちゃ上位の者よ。小さい人は捉えきれなかったのか、「どこにいたん?」と尋ねてくる。
「葉っぱのところ。アシナガバチ」
2本の長い足をゆらめかせながら、その者はサッと消えていった。
小さい頃、ベランダに干してあった靴下の中にアシナガバチが潜んでいて、気付かずに履いて刺されたことがある。痛みの強度は思い出せないけれど、痛かった記憶は鮮明だ。靴下を脱いだ時、弱々しく出てきたオレンジと黒の者に、ぞわっと鳥肌が立ったのも覚えている。
もういなくなったのに、ひいひいしている私を見て、「まいたけちゃん見えたん?」と、小さい人は重ねてくる。
「うん」
「はっきり?」
「うん」
まるで、見えてはいけないものを見た人への聞き方で、笑った。私だけが特別に見えたわけじゃなくて、てぃのちゃんが見つける前に飛んで行っただけだよ。小さい人はこういう、ボケとも真剣とも取れる、絶妙な加減の物言いをしてきて、大きい人々をときどき笑わせてくる。ボケて、それがちゃんとウケると、「もう1回やろ!」と再現Vをする癖があるところをみると、どうやら今回は真剣だったらしい。
小さい人と別れた後、大体月1で通っている毛穴洗浄へ、行く。ベッドに寝転び、メイクを落としてもらったら、牧野さんが拡大鏡で毛穴の出欠をとってくれる。すると、「黒ニキビが育っとる…」と、まさか元気いっぱい出席とのことで、えー!夏は汗もかくし、皮脂と汚れが絡まり合って絶好調になるらしい。そんな特殊な時期に、今回はたまたま1ヶ月半空いてしまったから、いつもより溜まったのだろう。確かに、心なしか、施術してもらったのに仕上がりがラフになっており、心許ない。28日間というターンオーバーを無視したのだから、当然の結果だ。1ヶ月に1回、きちんと通うことを誓った。
昨日に引き続き、まぶたがご機嫌斜め。左は三重で、右は奥二重という、左右差で楽しませる顔面になっている。夕方になるといよいよたるんできて、右はほぼ一重みたいだ。
ここ数日、目頭をアイプチのプッシャーでぐっと押して癖づける作業に追われている。でも、まあ、効かない。よれっと薄い皮膚が、線に律儀に布団をかけてくれて、どうにもならない。これが、大人の階段を登るということか。
ため息をつきながら、ダメ元で、目尻の方をぐっと押す。すると、あっけなく三重に戻った。まばたきしても、ちゃんと踏ん張っている。まさか、ハリのなさに救われた。
7/24 (金) まさか、ハリのなさに救われた。

