太陽光が、ぶんっとストレートを繰り出してきて、目が覚める。カーテンを閉め切らなかった朝は、急に雪国へ降ろされたようにまぶしい。6時過ぎ、のそのそ起床。
全員の顔が、立派な肉まん。昨日は祭りだったからな。鏡を見ながらおのおの手圧。大きい人は「汗をかくぞ」と、湯を溜め始める。今日は長野旅行最大のイベント、「友人宅にお邪魔します」が控えており、それぞれの気迫が目に見えてごーごーしている。大きい人は小さい人にがっちりモニタリングされながら、むくみと無事決別。おかえり。
どうやら今日は、朝から暑い。最高気温18°C。体感は19°C。カットソーにベストという大小の女子は、満場一致で下着も脱ぎ捨てる。私は朝活の余韻で内側がメラメラしていたから、これでもまだ暑いくらい。空気口を確保した装いで、出産祝いとお土産を大事に抱え、いざ出発。
外に出ると、予報通りお日さまがたくましい。ところが風も、たくましい。遠慮を知らない風圧に押されて、「いや、ちょうどいいし」という痩せ我慢に、ちゃんと限界が来る。バス停が見えてきたところで、「申し訳ないが寒いから、下着を着てきてもいいか」と白状すると、「ちょうどバスもなくて、寒い中待つかタクシーかという選択だったからよかった」と、失敗を大成功に変換してくる大きい人。さすが実体GPT。「ちょっと寒かったよね!」と、小さい人も見事な補足。あたい、いいチームに恵まれているぜ。それにしても、下着の大役っぷりがここまでとは。陰の立役者が過ぎる。
さて気も服も取り直してバス停へ。ちょうどいいバスが、またネコバスみたいにやって来た。友人との待ち合わせまでは、城山公園で遊ぶ予定だから、「城山公園前」で降車。大きい人が、大人2人分でICタッチをしようと運転手さんに声を掛ける。も、2人分で入力する前にタッチしてしまい、大人たちがあわあわ。「ちょっと待ってね〜」と、運転手さんが機械の相手をしてくれる。その瞬間、ハッとする。日傘が、ない。トートバッグの中も探すけれど、ここにもない。「まさか…」と、1番後ろの座席に戻ると、まんまと、いた。あまりに堂々としているから、思わず笑った。大きい人が、「今日はなんか守られてるね。やっぱり昨日、仏様とつながったからかな?」と目尻を下げる。なんせこの日傘、昨日の午前中に突然壊れて、駅ビルで迎えたばかりの新入りだ。あのお戒壇巡りが、私の人生に手を差し伸べてくれているとしか思えない。おうおう有り難がって、小さい人は城山公園まで一直線。県立美術館に隣接しているからか、敷地がむちゃくちゃに広くて、遊具も大小幅広い。一緒にはしゃぎたくなるけれど、今日は帽子もないし、私は小さい人の「見て見てー!」を回収する係に徹する。相方の大きい人は明日の帰宅に合わせ、トイレ修理の日程を組んでくれる。実は、旅の前夜に、あろうことか我が家のトイレはレバーが死んだ。たらいの水を流し、ふたも抜かりなく閉めてはきたものの、不安と異臭を家に残したまま、ここまで来ている。仏様、この守られてる流れで、どうかトイレもひとつ。
小さい人は、ひと通り遊具を制覇して、例の「もう大丈夫」宣言。いつでもどこでも、さっぱりしているタイプ。どうやら、トイレの修理は明日の18時〜20時らしい。やったやった。とんだ状況になっていやしないか不安は残るが、我が家のトイレの未来はひとまず明るい。
さて、親友のめいちゃんが、車で迎えに来てくれた。広島まで遊びに来てくれたのが3年前。「おっきくなったねー!」と、てぃのちゃんの成長っぷりに目を輝かせてくれて、じーん。会わないうちにお母さんになっためいちゃんだけれど、あの頃と全く変わらないハツラツさで、まだまだ大変な時期だろうにめちゃめちゃパワフル。よかった。会えて、嬉しい。小さい人は、「ネイルかわいいね」と、巧みに会話入りしてきてさすが。
話に花を咲かせていると、15分ほどでめいちゃん邸に到着。10階と聞き、高い所に住んでみたい小さい人は、雲を突き破る勢いではしゃぐ。「おじゃましまーす」とぞろぞろ上がらせてもらうと、リビングのドアが開き、「久しぶりー!」に重なるように、レイくんの泣き声が元気に響く。知らぬ面々の急な来訪はびっくりするよな。話に聞いていた通り、レイくんは0歳児には見えない育ちで、2m級のアイクの血がしっかり流れ切っていた。それなのに、目はめいちゃん似でとびきりおっきくて、顔はまるでピンポン球みたいにちっちゃい。手足は赤ちゃん離れしたスラッとさで、すでにモデルの気配。出来上がる前の、この一瞬を見られていることが不思議で、特別だった。
そして、食卓。「どこにそんな時間があったよ?」と思うようなごちそう。ちらし寿司に、おしゃれなサラダに、おやきまで。自宅で見る華やかさじゃないよ。長野の地にいる実感が、静かに満ちてくる。小さい人は、アイクに「本当の高い高い」をしてもらって、あごをしゃくりながら大喜び。めいちゃんからはお菓子セットをもらい、終始にやにやが止まらない。我々も、これこそレイくんにと選んだ贈り物を渡して、まさかまさか、アイクが同じブランドの洋服を着ていたから、「奇跡のタイミングすぎる!」と、場の温度が一気に10度上がる。
育てる者同士のあるある、悩みを分かち合い、最後の方はレイくんも慣れてきて天使のスマイルを見せてくれた。小さい者同士の交流も、このまま瓶に詰めて持って帰りたいくらい、かけがえがない。
家族写真を撮って、思い出をぎゅっと閉じ込める。アイクとレイくんに見送られながらめいちゃんの車でホテルまで送ってもらう。来られて、本当によかったな、今日。
さて、長野最後の夜は、最高の野菜天ざるそばをかっ食らう。小さい人は、お昼のごちそうとおやつで満たされているはずなのに、それでも積極的にいく。底力を、長野でもしっかり発揮。旧友との再会で舞い上がり、ねじが3つも4つも飛んでいた我々は、単品でかき揚げも追加して、フィナーレの準備は万端。やはり現れた、盛り盛りな信州そば。けれど今度は、誰も驚かない。「おいしいね」を義務的に挟みながら、無心で山を崩していく。くるみだれの襲撃には、3人とも目を見開いた。そばとの絡みが完璧すぎる。またもやズゴゴーと、掃除機みたいに吸い込んだ。
「長野」をまるごと受け止め切って、店を出る。なんの合図もなかったのに、それぞれに帰りたくなさが滲み出ていて、駅ビルをくまなく歩いた。
夜、小さい人が夢の世界へ行ってから、2人でシードルをちびちび飲む。明日、長野を出るのが寂しい。珍しく私の方がめそめそして、小さい人にくっついて寝た。


