3時57分。昨晩のトイレ事件のおかげで、4時のアラームより先に、体が責任感で起きる。今日から長野旅が始まるというのに昨夜、トイレの異臭と共にレバーが効かなくなっていることに気付き、とはいえ成す術もなかったから潔く寝たのだ。隣の小さい人の寝息で心拍を整え、気配を最大限薄くして寝室を出る。トイレのドアを開けると臭いは未だ在籍中で、死んだレバーが自然に直っていやしないかと期待するが、やる気のない棒のままだ。唯一救いだったのは、たらいでバシャーっと流した水が完全に去っていたこと。溢れる未来だけは、回避されている。夜のうちに、出張中の大きい人がGPTに相談してくれたようで、見解と対処法がLINEに届いていた。ビデオ通話をつなぎ、止水栓までは辿り着いたがやはり肝心のタンクのフタが開かないから、やっぱり直すのは難しそうとの結論。不安と異臭を残したまま3泊4日の旅に出るしかないようで、小さい人とオーマイガーを共有する朝。私は絶望しながらメイクをしたり、最後の荷造りをパタパタやりながらだったから、「なんか、長野旅行の朝っていうドキュメンタリーみたいになってるよ」と、大きい人は今日も和ませ上手。一旦、トイレのことは横に置き、水分補給とはしばし距離を置き、予定より30分早く家を出た。ちっとも万全じゃないけれど、旅は何食わぬ顔で始まる。
駅に着き、まずはトイレを済ませる。「流せること」の安心感に、心がめいっぱい踊る。飲み物やガムを調達し、いざ長野へ。始発で、隣の席も不在だったから、残り物で固めた精鋭たちを迷わず広げ、もりもり朝ごはん。「動いている」ことを除けば、ほぼマイホーム。途中、斜め前の席の老夫婦がキーホルダーを落としたのだけれど、どうやら気付いていない。小さい人が拾って、「どうぞ」と差し出すと、「あっ!ありがとう。優しいね、わざわざありがとう」と、負けない優しさで笑ってくれる。小さい人は、親切がもたらす圧倒的な充足感ににまにまして、たまご焼きを頬張る。車内の酸素が少し薄くなった頃、さっきの老夫婦が、「さっきはありがとう」と、降り際に声をかけてくれる。小さい人の「どういたしまして~」に、またひとしきり感心して、京都ではんなりと降りていった。小さい人は、この4時間のために出向させた「いちねんせいえほん」に胸をたかぶらせ、初めての「メープル味ビスコ」にでれっとして、「怪獣の花唄」と「アドベンチャー」を静かに熱唱して、東京に着いた。
待ち構えていた大きい人に飛びつき、一行は駅弁&おやつ調達の行脚へ。乗り換えまでの1時間、グランスタを練り歩き、お弁当2つとサンドイッチ、シュークリームにクッキーまで仲間に引き入れて乗り込む。体感、食パンがトースターから出てきたくらいの一瞬で、長野着。
小さい人は降り立つなり、「わあっこれが長野?!すてきー!」と物理的にも跳ねる。駅は想像以上に広く、改修したとあって現代的な顔つきなのに、木の素材がちゃんと温かくて、ほっとする。新幹線約6時間分の疲れは一気に吹っ飛び、指をはしゃがせて親友にLINEを飛ばす。
駅前のホテルで荷物を整え、街へ。向かうは、ちいかわポップアップストア。なんと、我々を待ち兼ねたかのように、東急にちいかわがやって来ているという情報を仕入れていた。長野初日のマストタスク。自宅近くにちいかわらんどはある。けれど、やっぱり品揃えが違う。「こんなのない!」を、「長野の思い出」という大義名分でじゃんじゃんカゴへ。気付けば、イヤーッハァー!のテンションで駅ビルをもれなく散策している。
粋な立ち飲み屋を見つけ、樽生シードルでほろ酔う。大きい人々は辛口に痺れ、小さい人はポテトサラダに痺れる。さっき衝動的に買った、信州有喜堂の「揚げ煎甘辛みそ」も開封。分厚く、しっとりしたお煎餅で、めりめりと歯が食い込む感じがたまらない。振り切った甘辛さも好きすぎて、躊躇なく溺れた。
追加でねぎ味噌も買い、信州限定ちいかわキーホルダーも迎え入れ、夕飯は「長野県長寿食堂」へ。鶏肉の山賊焼き定食と、薬膳カレーで本日を一旦健康に締める。
のに、帰りにりんごプリンを買って、ホテルでスイーツタイム。今日はやらかしたい気分。
楽しみ尽くして、大浴場へ。小さい人は初めてだから、「何か着て入るのか、それともすっぽんぽんで入るのか」と聞いてくる。「他人と裸の付き合い」が未経験だから、そりゃそうだよな。19時の浴場はほぼ貸切。結局「家族温泉」みたいになったけれど、大きいお風呂に、初めてすっぽんぽんで入った記念日。小さい人は隣の冷たいお風呂を指差して、「冷たいお風呂、入る?」と聞いてくる。「サウナから出た人用の水風呂だからね。入れないよ、風邪ひくよ」と首を横に振ると、「水風呂ってさ、水なん?」と、理解したい欲をまっすぐ投げてきて、らしい。水風呂が水じゃなかったら、「水」って書く意味よ。
ほかほかの家族が集結し、2つのベッドを1つにくっつける。21時半、移動と食欲に預け切った1日を閉じた。


