5時52分。世界はもう完全に起動しており、小さい人も呼び起こす。
やや駆け足で我が家の朝事に取り組んでいると、小さい人が、「山賊むすびの中身、なにとなにとなにだろう?」と首を傾げる。昨日の就寝前、今日の給食メニューをインストールしたから十中八九そのことだろう。山賊むすびは、1つで3つの味が登場する夢の仕様だと説明はしたが、中身の機密情報までは開示し忘れた。すぐに献立を召喚し、「中身はねぇ…鮭、昆布、梅!」と投げると、「うめ…こんぶ…さけ…!すきぃぃぃっ!」と、好き順に連ねてきてかわいい。朝から感情が真剣にまっすぐで、もうこっちは白ごはんの気持ちでいる。
顔面をこしらえながら、「すごい寝坊しちゃったから、ちょっと速く動こうね」とスピード感を共有すると、たちまち協力的に作動し始めて頼もしい。が、それも長くは続かず、着替えたはいいものの、ズボンのお股のところが絶妙に嫌みたいで、また泣いている。最近毎日だ。ぴちっとしているのがどうも不都合らしいから、ゆるめのズボンを買おうかと提案しつつ、とはいえ「必要なのは新しいズボンじゃなくて、気にしない練習だ」と、プログラムの書き換えを試みる。すると、小さい人は寂しそうにしながらも、「わかったぁ」と内側に潜っていった。こういうところに、やっぱり頭が上がらない。この小さき者、やはり人生2周目か。
ご機嫌を取り戻すと、「大人になったらね、そよちゃんとうみちゃんとはなちゃんと一緒に東京に行って、ホテルに泊まって、焼肉食べて、ロケットに乗って地球を回って、広島に帰ってくるんだ」と、友との約束の話をしてくれる。情報量とスケールが一気に宇宙まで到達しておるな。「うわあ〜壮大な女子旅いいなあぁぁ」とうずうずすると、「まいたけちゃんも来たかったらいいよ、ロケットそんなに席あるかわからんけど」と、急に地に足のついた視点になって吹く。確かに、宇宙規模でも座席は有限だものな。
小さい人を社会へログインさせ、私は帰って仕事。
お昼、生協で頼んださつまいもを切ると、中が紫色で、1人大きめの「え!?」が飛び出す。注文履歴をよく見たら、「紫さつまいも芋・なめがたの紫福」とある。「紫」が畳み掛けてきた。気になって調べると、「紅はるか並みの高糖度と、ねっとりしっとり系」だという。紅はるか並みと言われてもピンとこなかったから、さつまいもチャートなるものを見てみる。と、紅はるかは「ねっとり」の軸と「甘み濃厚」の軸が、どちらも枠を無視していた。名前のイメージから、安納芋とかシルクスイートが王様かと思いきや、そうなのか。3本分をひとくちサイズに切って、水に浸したら、中が白っぽくなった。200°Cで20分。焼き上がったそれは、うるっとしっとりした、ほぼ蒸しパン。色は深い紫色に戻っており、しばらく「ええー」と「ほおー」の間で揺れる。味は、野菜の概念を覆すくらい甘かった。神宝塩につけて食べると、さらに甘みが輪郭を持つ。あのチャート、思っていたよりずっと「蜜」に緻密だった。密かな推しポイントが、酸化の具合いがまるで読めないこと。私の中で、完全にレアキャラ認定。小さい人は、この紫をどう受け取るのか。
さて、小さい人を回収しに行く。100周年記念事業として、社会は目下、園庭をまるごとアップデート中なのだが、今日から部分的に解放された。1時間、フルで遊び切って帰宅。久しぶりに育てる者同士の交流もあって、こちらの内側も潤った。洗濯物を畳んでいると、制服のブラウスのポケットにホコリが居座っていたから、ひっくり返してガムテープでぺたぺた回収する。どうでもいいのだが、この作業、結構胸が踊る。ボタン部分の生地まで丁寧にひっくり返して、取りこぼしなくぺたぺたする。
夜ごはん。小さい人は、紫の彼女を1つ頬張るなり、「おいっしー!!甘い!甘い!甘い!甘い!」と、足まで騒がせる。「さつまいもの中で、いっちばん好き!!!」と、迷いのない公開告白。顔面のパーツが中央に吸収されそうなほどの至福顔で、紫福の方もきっと破顔だろう。豆腐と長ねぎのかにかま中華スープをすすりながら、「てぃのちゃん、お腹と相談できるようになったらさ、コンビニで焼きそばUFO買って食べてもいい?」と上目遣い。「急に!?」を飲み込み、「もちろんいいよ」と判を押すと、「やった!」と、かにかまをずるずる。甘さの女帝に心を奪われた直後でも、ソースの彼はしれっと本命に食い込んでくるあたり、小さい人も、ちゃんと欲望を回収している。
3/17 (火) ちゃんと欲望を回収している。

