週1回、週末に外で食べたい物を食べるという楽しみに己の全てを預け切りらんらんと生きる私だけれど、突然、その楽しみを手放さなければならなくなった。その日、義実家でのお誕生日会を終えて帰宅すると、顔がバカンス帰りですというような上機嫌さで赤くほてほてとしており、だけど体はちょっと寒さを感じるような具合いだったから何事かと陽の気でいっぱいだった脳みそを強制的に黙らせ、原因究明にフル回転させる。お酒はたしなんだが大した量ではないし、そもそもお酒で赤くなるのなんて頬骨の辺りくらいで、顔面全域が赤いなんて初体験だ。なにしろ私はいきのいい上戸である。単純に盛り上がりすぎて熱でも出たのだろうかと思うも体温は至って正常で、原因がイマイチ定まらぬままひとりぼんやりお風呂に入る。顔と体でこんなに温度の差を感じるくらいだから、たぶんサーモグラフィーで見たら顔は真紅、首から下は群青、みたいな感じだろうなと思いながら首から下をしっかり温めて出る。脱衣所で洗面台に向かい、相変わらずのほてり顔に化粧水をつけているとお腹の辺りにポツっと、赤ペンでちょんとしたくらいの点が2つできているのに気付きおやおや…?と思う。その3秒後くらいにハッとして二の腕も見てみると、右の方にだけ1つ赤点ができていて、もはや答え合わせに近い感触だった。実はこの赤点にお目にかかるのは初めてではなく、数ヶ月前にもみぞおちの辺りに1つ現れて痛くもかゆくもないから放置していたのだけれど、ついこの間「その赤点、糖質の摂りすぎです」という注意喚起動画を観たばかりだったからほぼ決まりだと腹落ちした。配信主のドクターが言うには、お腹の他に二の腕にもできやすく、糖尿病に片足突っ込むレベルになると首の後ろの骨がゴツゴツしている辺りにしこりができたりするということだからもう未知すぎて恐ろしい。しこりの気配は今のところないけれど、糖に対して激甘な民族であることは間違いないし、普段は控えている白飯だって本当はジャーごとどかどかいけるタイプだから糖尿病予備軍としてはぴっかぴかの優等生だろう。糖質の摂りすぎか…と、特に今日はお誕生日会だったしスーパー甘いケーキもハイパー甘いお菓子もじゃんじゃん食べたから、いよいよ振り切ってしまったのかもしれないなと行き過ぎたハメの外し方を反省する。3つも一気にできたからたぶん過剰も過剰だったのだろうし、数ヶ月前の赤点の時にちゃんと調べて、糖質の過剰摂取が原因ぽいぞとわかっていれば防げたのではないか…?と思うと自分の甘さに落ち込んだけれど、それでもきっと食に豪速球な私は盛んに食べたし、ドカ食いをやめもしなかっただろう。ドカ食いのために生きてるんだからいいんだもーんと結局びゅんびゅんかっ飛ばしたと思う。私は食に対して3歳児のような人間だ。
さてそれはそうと、この真っ赤に燃えたぎる顔についてはどう説明してくれるのか。あのドクターも赤面については触れていなかったからわからない。見るからに赤点よりも深刻さが前面だし、もはや段階が違う雰囲気がびんびんなのだがそもそも論としてちゃんと糖質と関係しているのだろうか…?いや関係していなかったら困るよとやや不安を抱えながら調べてみると、糖質の過剰摂取が赤ら顔として出ることがあるとの記述を見つけ、絶対安心できる場面ではないが自信を持って安心する。不思議なもので、原因のわからぬ赤ら顔はただただ恐怖でしかないけれど、原因のわかった赤ら顔はもはやラスボスを前にしたくらいの手応えを感じてメラメラしてくる。攻略対象がはっきりするというのは大事なことだ。とはいえ、ここから始まるであろう修行の日々を想像すると、私の背骨はじわじわと職務を放棄し始めデスクに溶けた。ああ…私のドカ食いが…生きる希望が…あああ。他に何か良い方法があるはずだとどろどろの頭を引っかき回して考えるも、甘いものをやめる、ドカ食いをやめる以外の策など思い付くはずもなく、案の定家族にも「普段の血糖値の安定と急な乱降下をなるべく防ぐために、甘いものやお菓子を断ち週1のご褒美を月1にしてみたらどうか」と折衷案を提示され、「わかってるけどさあぁぁぁ、甘いお菓子食べたいんだよおぉぉぉぉぉぉ…そもそもその月1が今まで以上に大爆発したらどうなっちゃうんだよぉぉぉぉぉ」と、深酒で面倒な絡み方をする酔っ払いみたいなテンションになる。性格上、私は「食べて良いと許可した日」に「ちょっとだけ」食べるというのができない。食べると決めたら食べる、どこまでも食べる。ほぼ血液のように流れる、隙さえあれば片っ端から食べ尽くしたい、特に甘いもので満たしたいという欲を封じ込めるには糖質になど怖じけてはいられないのだ。なにしろ私は毎日HIITで体を燃やしまくっているし、その頑張りを讃えるためのスイーツドカ食いだ。怖いものも失うものもない。ドカ食いをあきらめられず、かといってドカ食いの内容も変えられない3歳の私はもう何もかも終わりだとおんおんした。そんな私を見兼ねた家族は、未来永劫そうしなきゃいけないわけではないのだから3ヶ月くらいやってみてどう変化するかを見てみようと励ましてくれ、突っ伏していた顔をそろそろと上げる。何にしても普段の砂糖を控えることで体の中はぎゅいんぎゅいん変わっていくはずだし、もちろん見た目にもバンバン現れるからそうなればそもそも欲しない体になっていくのだと、玄米と野菜と塩のみで生活した自身の経験も交えて話してくれてなるほど説得力がある。赤ら顔と赤点について原因をもう少し詳しく調べてみると、どうやら赤ら顔は「加工された糖質数値の高い物を早食いしたことで血糖値が急上昇し、血糖値を下げる役割のインスリンが大変だ大変だと大量分泌し低血糖状態になったこと」で起きたらしかった。あんなに顔が熱かったのに低血糖状態だったのかと、ぼけっとスリルある体験をしていたことに驚く。赤点はというと、「その一連の血糖値乱高下で毛細血管拡張が起きたこと」が原因らしい。要は、伸縮機能のある毛細血管が糖質の過剰摂取により伸びて広がったまま固定され、皮膚の上から見えるようになってしまったというのだ。怖いのは、一旦はっきりと固定された毛細血管が自然に戻ることはほぼないそうで、やるとするとレーザー治療。広がった毛細血管にレーザーをあてることで反応させ、「不要な血管」だと体に教えて吸収させる方法になるとのこと。10代20代の若い人たちが早々に健康志向へ舵を切っているこのご時世に、30代の私がなにを添加物にだけ情熱を注いでのびのび暮らしているのか。発散のためとはいえあまりに無謀に生きてきた自分を恥じる。わかったのは、一にも二にも食生活を整え、健やかさを維持するのが大切だという常識中の常識だったのだが、こうも真正面から突きつけられるとやけに深く沁みた。あれこれ知識を得て出た結論をまとめると、糖質は【①糖の種類、②食べるスピード、③全体量】の順に気を付けることが重要で、特に①に関しては吸収のスピード=血糖値の波の大きさに関係するということだから勇敢に気を付けたい。②に関しても早食いな私は慎重にならねばなるまいが、③に関しては脂肪に懐かれることなくやってこれているので少し寛容でいても大丈夫そうだ。まだまだ理解が不十分ではあるけれど、どうやら主食やお菓子に多く含まれるブドウ糖というのは厄介そうだから意識して向き合っていきたい。血糖値爆上がり事件とはもう円満にお別れする予定だ。そうと決まればさあさあやるぞ、大型内装工事!まずは台所改革から。エネルギー補給のためにちょこちょこ飲んでいた甘めのカフェラテやラムネ、胃を欺くために噛み倒していたフーセンガム、何度となく情緒を支えてもらった干しぶどうを「お世話になりました」と丁寧に奉納する。(忍びない処分を我が家では奉納扱いとしている) 単身赴任で月に一度しか我が子に会えないような寂しさが込み上げたけれど、もう甘いことは言っていられない段なのだからと強引に気を引き締めた。
結論、1ヶ月で変わった。1ヶ月経ったら、あの頃の元気に向こう見ずな3歳の私はもういなかった。なんとか奮い立たせるべく、1ヶ月頑張った暁には大好きな洋酒パウンドケーキを食べようと心に決め、ただただ走った。できることは全てやってみるぞと、調味料を完全にラカントへ移行し、ヨーグルトにかけるはちみつはなるべく少なくした。糖分欲が収まらない時はさつまいもやかぼちゃに助けてもらい、よく噛む意識で食事に臨むようにした。すると、身も心も別人級になった。とはいっても平和に、華麗に変わっていったわけではなく、正直なところ3週間は急におもちゃを取り上げられた子どものようにくさくさと過ごした。仕事の相棒を無糖カフェラテとシュガーレスガムに切り替え、合間合間で素焼き大豆に慰めてもらいながらも自信満々に気怠かった。休日に出かけてもドーナツが食べられない、アイスクリームが食べられない、むしろ食べられる物がないという状況は外出すらちょっと億劫になるレベルだったから (実際ごはんはもりもり食べていたので平和な騒ぎです) 、心の支えとして素焼き大豆を持ち歩いた。経験上、何事も最初の壁を越えるのがどえらい大変で、越えてしまえば案外さくさくと進めるものだと理解しながらも、甘みのない毎日は鬱屈として、すみません糖質の過剰摂取は勘違いでしたみたいなことが起きやしないかと期待してはいじけた。だけれど最後の1週間、錆びついていた歯車が突然ぐるんぐるん回り出した。容赦なく振り切った食事改善が功を奏したのか、気付けば顔も体も肌がつるりとし、そういえばニキビは出ないし信じ難いが髪もうるつやになって心が飛び上がった。真冬につき保湿に力を入れたこともあるだろうが、くっきり手強かった目尻のシワも存在が薄くなり、全体的にこ綺麗になったから調子に乗ってノーファンデで過ごすようになった。メイクが面倒ごとの類に寄っている私にはもはや生活革命だ。にっくきシワよ、そのまま奥で余生を送れ。そういえば玄米と野菜と塩のみの仙人生活をした家族が「シワが薄くなったんだよね」と話していたことを思い出す。糖質、いや砂糖のすさまじさよ。貧乏な頃、長らく菓子パンに救われていたけれど、しれっと凶暴すぎないか。1番驚いたのは、太もも裏のセルライトがほぼなくなったこと。20代からのちょっとした悩みだったのがセルライトで、どんなに痩せようとも太もものセルライトだけは堂々と存在を主張し続けていた足だった。つまんでボコッとするくらいならかわいいものの、普通にしているだけでそこにいるのがわかるレベルだったからどうにも気になってしまう。友だちの間でちょっと流行ったセルライトつぶしを真面目に試した時期もあったのだが、ただ痛いだけで希望だけがじりじりとつぶされた。なのになのに、30代にして成果が出た。糖質制限、砂糖回避によってセルライト不在の太ももを手に入れた。自分の足じゃないみたいだけれど、こういう足の時代が輝いてあったのだよな。おかえり。精神の面で言っても嘘やろみたいなことが起こった。なんと楽しみにしていた洋酒パウンドケーキを食べずにやり過ごしてしまった。いややり過ごせてしまった。解放日を明日に控えた夜、やっぱり食べなくてもいいかなという気持ちがふいにひゅんっと現れて、家族にも「やっぱり洋酒ケーキやめる」と宣言して寝た。当日もちろん買いに行けるタイミングはあったし、頑張ったご褒美として何か甘いものは食べたいなと思っていたけれど、お菓子じゃなくてもいいなというヘルシーな思考に突き動かされて、結局家でカンパーニュのバナナはちみつトーストを作って食べるにとどまった。お菓子を選択できる時にお菓子を選択しないなんて、そんなの人生で初めてかもしれない。体が変わったんだねと家族もふんふんうなずく。
さて2ヶ月のタイミングではどうだったかというと、皮肉にもクリスマスや年末年始の大イベント時期が重なっており、機会を設けずとも機会が両手を広げて待ち構えている状況だったからむしろ明るくあきらめて、ドカ食いだけは避けようぞという心持ちで挑んだ。文化の都合に逆らってすねて過ごすくらいならば、いっそ堂々として祝祭に巻き込まれようじゃないかと覚悟を決めた。クリスマス、お正月と計4日間の催しを終えて残ったのは、節度を携え理性を見失わなかったという人生でも指折りの奇跡だった。大袈裟じゃなく、人生が静かに再起動した。私という人間の取扱説明書が書き換わった瞬間である。みなさーん、もう私は餌付けには乗りませんよ〜!公式には、ここにそう宣言しておきます。この調子でいけば3ヶ月の関門も正気のまま通過できる気がして、物語としては退屈するが、人生は脈々と輝きそうだ。赤点は、やっぱり消えない。
まいたけ読んでくださってありがとうございます…!

