道を歩く時、「お見合い状態」になることが私はよくある。
向こうから真正面に歩いてくる人と、お互い同じ方向に譲り合ってしまい、右、左、右、とステップを踏んでしまう。
思いがけず、見知らぬ人とステップを繰り返しているのがどうにも恥ずかしくって、可笑しくって、あっあはは、すみません笑 みたいな感じで避けることが多いが、露骨にイラッとされることも少なくない。
相手と逆の方を選んでスマートにすれ違いたいのに、なかなかうまくいかない。
場面としては、横断歩道を渡る時が1番多いように思う。
向こう側に信号を待つ人がいて、距離は遠いけど自分と完全に向かい合っている状態。しかもお互い前を見据えている。
信号が青になって、お互いまっすぐ歩き出す。チラチラ視線を送りながら、だんだん距離が近付いてくる。
どうするどうする!?と相手の様子を伺いながら歩く自分。同じく、どうするどうする!?と私の様子を伺いながら歩く相手。
結局直前まで読み合ってしまい、あっごめんなさい…!お互い通せんぼする結果になる。
心理学用語的には、「同調行動」と呼ぶらしい。
人は、他人の視線や動作についつられてしまうらしく、がゆえに「お見合い」してしまうのだそう。ぶつからないようにと思う気持ちが、結果的に相手の視線を追うことになり、同じ方向に動いてしまう。
確かに、避けなきゃいけないのはわかっているのに、うまくそうできないところをみると頷ける。
さらに、人には連続回避本能というものがあって、右に避けてぶつかりそうになると、反射的に左に避けるという行動を取るそう。
ずっと右に避け続けるというのは普通難しくて、だからステップを踏むことになる。
これは本当に危険な話なのだけど、実は自転車同士でお見合い状態になったことがある。しかもあろうことかお見合い事故になってしまった。
ちょっと狭い道&カーブだった&読み合いすぎたことで、お互い避けきれなかった。
そもそも注意が必要な道で、スピードが出ていなかったことが不幸中の幸いだったけれど、相手の自転車の前輪側面に、私の自転車の前輪が突っ込む形でぶつかった。
バランスを崩した私たちは真横に転んだ。2人ともケガはなく、大丈夫ですか!?ごめんなさい!で済んだ。
どちらかと言えば突っ込んだ私の方が悪いのだけれど、相手の方は怒りもせず、むしろ転んだことの恥ずかしさに慌てて、すみません!大丈夫ですと言ってくれた。
自転車だと、恥ずかしステップじゃ済まされない。
スマートにすれ違うためにはどうしたらいいのだろう。
いろいろ試してみてこれだ!と思うのは、相手の足元に視線を向けながらすれ違う作戦だ。
要は、あっこの人こっち見てないから自分が避けなきゃだなと思ってもらい、避けてもらう側にまわるということである。決して見ないということではなく、視線は合わせないけれど、視界には入れておくということだ。
なんだか見たまま我が道を行く人でちょっと印象が悪いかなと思うのだけれど、これでうまくすれ違えなかったことはない。
いや、なかったのだけれど、この前それが裏目に出た出来事があった。
私は歩行者、相手のおばさまは自転車だった。
下り坂をスーッと降りてくるおばさまが遠くに見え、私は早くから歩道の左端に避け、作戦通りちょっと視線を下にして歩いていた。私端っこ歩きますんで、避けてくださいねの合図を出していた。
その時、私の右側を自転車の女性が上っていき、おばさまはその女性を避けるために右側 (私が歩く方) へ避けた。
おばさま的には、こっちは自転車でスピードも出てる。だから私が立ち止まるとか、反対側へ避けるとかを期待していたらしい。
急ブレーキをかけ、怒声をあげた。「なんだよもう!!」
距離はまだあったけれどスピードが出ていたから、ヒヤッとしたのも相まって怒鳴ってしまったんだろう。
急いでるのにあんたのせいで止まることになったじゃない!なんて気持ちもあったのかもしれない。
何にしても、初めてこの作戦がうまくいかなかった。後味の悪いすれ違い現場となった。
そのまま去っていくおばさまに申し訳なさも感じつつ、もやもやとした気持ちを引きずった。
スピードをもっと緩めてくれたら、ごくごく普通にすれ違えたのではないだろうか。
そんなに怒声をあげず、こっちもあげられることなく、それぞれ平和に行くべきところへ向かえたのではないだろうか。
そもそも、どちらかと言えば歩行者が弱い立場。歩行者に優しさを、というのは自転車に乗る人の義務じゃないのだろうか。
なんて悶々としたのだけれど、結局は、自転車でスピードが出ている自分を気にも止めずに歩く、脳天気な私の姿が大元のイライラを生んだ気がする。
じーっと見すぎても危険だけれど、かといって見なさすぎても危険なのだ。誰相手に、どんな状況でも無関心そうであってはいけないのだ。
子どもの頃、危ないからちゃんと前を向いて歩きなさいと言われてきたけれど、そっちの危なさ回避でもあったんだなあなんて思う。
それにしても、こんな危険だらけの世界で、みんなうまく生きてるよなあと感心してしまう。
こんな、生卵みたいなものが今日も無事で機能し、生活を営み、私の知っている人々、愛する人々、みんなが今日も自分をたやすく壊してしまう数々の道具を扱いながらも無事に一日を終えていることの奇跡よ…..
アムリタ 上 / 吉本ばなな

兎にも角にも、あの時のお見合い事故がおばさまじゃなくて良かった…
