決めつけは弱さだ。

いろんな人格

彼女は、私にとって頼れるお姉さん的存在だった。
いくつか年下だけれど、それを忘れるくらいしっかりしていて、とにかく気が回って、この人には敵わないなと誰もに思わせるほど、できた人だった。
プライベートでしか会ったことがない私ですらその印象なのだから、一緒に働く人たちはどれほどのことだろう。


彼女との付き合いをざっと数えてみると、友人歴5年、会った回数で言うとたぶん20回もない。
それだけ聞くと、そこまで深い間柄ではなさそうに思えるし、実際たくさんのことを話してきたわけじゃないけれど、私は彼女が大好きだった。

ほっとする落ち着いた明るさがあって、それでいて面白さも持ち合わせていて、一緒にいると楽しくなる。私が在りたい姿をそのまま映し出したような人。それが彼女だった。

間接的だけれど、仕事での付き合いもあって、彼女のすごさは知り合った当初からあちこちで聞いていた。

どんなことにも食らいついていく根気強さ。圧倒的なサポート力。自然と人を束ねる存在感。
彼女の影響力は計り知れないだろう。


そんな彼女が、先日結婚した。
社内結婚だったこともあり、出席者はほぼ社内の人間。
私は出席できなかったけれど、幸せそうな写真を見れただけで胸がいっぱいだった。本当のお姉ちゃんがお嫁に行ったような、誇らしい気持ちになった。

それから、式が終わってまだ間もない頃、私は彼女が働く職場に出向くことになった。
別件だったけれど、せっかく行くんだから、「綺麗だったよ」と伝えよう。そう思っていた。会うのが楽しみだった。

プライベートでも仲良くさせてもらっている人たちばかりだし、定期的にオンラインでのやり取りもあるものの、実際職場に行くのはやっぱり緊張する。入ろうかどうしようか5分ほどうろうろして、ガラス張りの扉の奥に彼女の姿を見つけたところで、意を決して扉を開いた。

仕事中の彼女は、私の存在に気付かなかった。入り口から見えるとは言え、ちょっと離れていて、背を向けるような位置にデスクを構えているから無理もない。
先に、今日お世話になる人たちに挨拶挨拶!と、ひと通りの挨拶を終えてから彼女の席に近付いた。
そこには、「我・今・真・剣」という字が浮かび上がってきそうなほどの真剣さに包まれた彼女がいた。

これはやめといた方がいいよね。
一瞬その自分が出てきたけれど、そう考えると同時に声をかけていた。

2回目の呼び声に、彼女は無言で振り向いた。
私は、私だと気付いてほんのり微笑む前の、氷のように冷たい彼女の顔を見逃さなかった。
やってしまった、という後悔とは裏腹に、手をあげてにこっとする自分がいた。
人は、あまりに想定外のことが起こると、驚きを隠すためにえも言われぬ微笑が出るものらしい。

半ば無意識でそのまま後退りして、ちょっと困ったように微笑む彼女が前に向き直ると、これもまた無意識に「ごめんなさいごめんなさい」と、2回つぶやいていた。目をきゅっとつぶって、怒られた子どものように。

なんてことをしてしまったんだろう。
仕事場は戦場。戦闘モードだって当たり前だ。そもそも彼女を取り巻く空気は張り詰めていたのに。
逆によくいけたなと、もう自分を滑稽にすら思う。

私は、自分のことしか考えていなかった。
伝えたいからって、せっかく来たんだからって、相手の状況に配慮なく、プライベートな心持ちで話しかけるなんて絶対してはいけなかったのだ。
行動力も、履き違えるとこうなる。

さらに私は、彼女は「こういう人だ」と勝手に決めつけ、いつも変わらずそうであることを期待していた。明るくて、いつも受け入れてくれる彼女が全てだと思ってしまっていた。
だから、自分が知る彼女とあまりに違う雰囲気に、想像以上に傷付いていた。


見えている部分だけがその人じゃない。
一部しか見ていないのに、全部を知ったような気になっちゃいけない。

決めつけは、弱さだ。
結論を急ぐ、心の弱さだ。


物事に良い面悪い面があるように、短所が長所にもなるように、その人をこうだとは言いきれない。あの人はこういう人だ、自分はこういう人だ、と、1つに決めてしまえれば楽だけれど、いろんな顔があって、幅も、深さも、奥行も、全部含めてその人なのだ。


だから決めつけずに、どんどん書き加えること。
消して書き直したりもして、深く知っていくことを楽しむんだ。


仕事中に、それもめちゃめちゃ真剣にやっている時に、用もないのに話しかける人だったのかと、彼女は幻滅しただろうか。
もう、嫌われてしまっただろうか。

次会うのがちょっとこわい。
だけど、それくらい大切な人なんだって自覚できたことが、ちょっと嬉しい。


人間理解をもっともっと深めていこう、そう思った出来事でした。

プリーズ シェア!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

自身の気付きや学びをベースに、"より善く生きるコツ"をお届けしています。

いつだって心穏やかな人でいたい。生きることに、シアワセな気持ちで取り組みたい。そんなお仲間を見つけられたら嬉しいです...!

もくじ