食べたいがために動くようになった私は、気付けばもう半年間、毎朝ぜーぜー汗だくになっている。家族にトレーナーを務めてもらってミット打ちに励み、竹脇まりなさんのHIITで代謝も気分も爆上げして私の1日が始まる。昔はジムに通ったり外をランニングしたりして運動時間を取ったけれど、天気という圧倒的存在にまんまと気分を左右され続かなくなった。自分みたいな怠け者には、やらない言い訳を言えないようにする工夫が必要なのだなと、宅トレの偉大さに心底有り難がる。マンションだから、めちゃめちゃ飛びまくる動きは控えなければいけないが、それでも家の中でしっかり息が上がる運動ができるのだからこれが1番楽チンだ。究極を言ってしまえば寝起き0秒でトレーニングが始められるわけで、そんなのもうズボラかつ人目を気にしちゃう自分にはどんぴしゃすぎる。と、自分に合う運動環境を見つけ、食べることに遠慮しなくていいHIITに出会って、私の運動習慣はその強度をめきめきと上げていった。最初は20分できれば満足していたのだけれど、気付けば1時間近くのトレーニングが日課になり、せっかくだからじゃんじゃん消費したくて下半身のトレーニングに情熱を注いだ。そして、やりすぎてまんまと膝を痛めた。初めは多少の違和感だけだったし、違う動きを取り入れたことによる筋肉痛かな?と思っていたから、むしろ今こそ使ったれー!ともりもり動いた。足を鍛えていると、長時間歩くのも小さな家族とおにごっこをするのも何のそのという具合いになって、早くやっておけばよかったと思うほど足の鍛練の重要性を痛感したから多少の痛みなど気にしない!とスクワットだけはガンガンやった。でも、筋肉痛のようだった痛みは徐々に膝の骨を痛めたような痛みに変わり、生活上の何気ない動きにも影響が出てきてハッとした。もしかしてこれは痛めているな…?膝を…。違和感が出てから3週間、ようやく故障に気が付いた。いや、気付いてはいたのだが、認めたくなくて目を逸らしていたのだ。動きたい、動かなきゃ、そういう欲を優先して見て見ぬふりをした結果、じわじわ悪化するという世にも哀れな話となった。
スポーツマンとして生きてきた家族にいよいよ現状を打ち明けると、たぶん筋肉疲労による痛みだとは思うけれど読み間違っては大変だし不安は潰しておこうということで病院に行くことを勧められた。さてさてどこの病院にするかとあれこれ症状を話していると、これはやっぱり筋肉疲労だよねということになり、であれば通院して治療したら治るというものでもないだろうから、筋肉を休ませ、硬くなって張っているところをほぐしていくのが良いかもしれないという話に落ち着く。膝を曲げること自体は平気で、曲げた状態で負荷が掛かると痛いということだからとりあえずスクワットはなし、下半身をとにかく休ませようという提案を受け、そうしなければいけないだろうとは思っていたがいざそうしましょうとなると休みたくない気持ちが勝ってなかなか首を縦に触れない。なにしろ私はこのトレーニングでスクワットを1番頑張ってきた。さまざまなHIITをやっているがスクワットほどがしがし消費できるものはなかなかなく、スクワットを頑張っているから食べたい物を食べられ、それでいて体型もキープできたと言っても過言ではない。お休みすればせっかくバキッとついた筋肉も落ちてしまうだろうし、筋肉量が減るのだから代謝も下がって燃焼するパワーがへなちょこになるだろう。そうなってしまえば食べられない。いや、私の場合それでもばくばく食べてデブ確定だ。どうしようどうしよう…。そんな心の内を見透かしたかのように家族が、「体のサインを見逃さず、休むべき時に休めるのが本物のアスリートだ」と経験も交えて話してくれる。アスリートは、強くなりたい、上手くなりたいという情熱がとんでもないから基本的にやりすぎてしまう。体が悲鳴をあげていてもやり続け、やりすぎて故障して、リハビリが長くなって、最悪の場合ユニフォームを脱がなければならなくなる。ライバルたちががむしゃらに追い込んでいることを考えると、休むことが怖くてやり続けてしまうのだけれど、そんな時こそ勇気を持って休む選択をするのが大切なのだと言う。確かに、家族が筋トレのやりすぎで腕を壊し、やりたいのにできないという現実を前に長い間もんもんと過ごしていたのを見てきた。少しでも、軽くでも何かしら取り組めれば、最低限できることはやっているという自信と納得感が得られるだろうが、全くできていないとなると苦しい。だから、そうならないためにも休むのだ。本物のアスリートは、休む大切さを知っているのだ。
そうかそうかと家族の話に納得し、私は心を決めた。下半身の筋トレをやめ、代わりに膝の痛みを治すストレッチを取り入れた。無意識に膝をかばうような体勢で生活していたようで、腰にまで突っ張ったような痛みが出ているから無理せずゆっくり入念に行う。なにしろ体が硬いからストレッチは苦手なタイプなのだが、膝の調子を観ているとちゃんと効いているようだからすごい。何だか本当にアスリートになった気分だなと、競技生活とは1mmも縁のない生活を送ってきた人間だが、体を鍛えたり労わったりしていると体の有り難みをひしひしと感じて大事に使おうという気持ちがとめどない。死ぬまで共に生きる体なのだし、日々観察して、良い使い方をせねばなと背筋が伸びる。
お休みしてから1ヶ月半、未だに膝は元に戻っていないけれど、今まで実は上半身の筋肉が全然使えていなかったことに気付けたし、下半身を鍛えずとも頑張り方次第でめちゃめちゃ消費できることもわかった。離れることで見えてくるものがあるのだな。そう思うと、膝の故障にも意味が見えてくるし、怖かったけれど休む決断ができて本当に良かったなと思う。あのまま見て見ぬふりをして、まだいけるまだいけるを続けていたらもっと大事になっていたかもしれない。

30代にして、まいたけは休む勇気を覚えた。
